蜂鳥(ハチドリ)物語〜2羽の小さな小さな蜂鳥の一生

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蜂にしか見えない小さな鳥

 

日本の南の島で生まれた小さなオスの蜂鳥がいた。

その蜂鳥の名前はペコ。

しかしペコは体が5cmほどしかなく、他の鳥たちからは『お前は鳥じゃなくて蜂だろ!』とからかわれ、いつものけ者にされていた。

 

南の島に住む鳥たちとは見かけが違うというだけで友達もできない。

でもペコはいつも明るく、海が見える丘で大好きな花の蜜を吸っていた。

 

蜂鳥はどんな鳥たちよりも早く羽を動かすことができる。

だからペコは空中に静止して花の蜜を吸うことができるのだ。

 

大きな鳥たちには絶対に真似ができない芸当だった。

小さな体の蜂鳥の飛行力は鳥の中でも一番なのだ。

 

ある日、いつものように丘の上で海を眺めていたペコ。

ペコはいつもこの海の向こうには何があるのだろうと考えていた。

そしていつかこの広い海を渡ってみたいとも思うようになった。

 

蜂鳥の寿命は3年から5年。

ペコはもう1年をこの島で過ごした。

ペコは外の世界を見るなら今だと思っている。

 

ペコは他の鳥たちがまだ寝ている夏の日の早朝に、あの丘の上に立っていた。

海は風もなく凪いでいる。

空と海の境界線が薄紫へと変わる。

 

そして太陽の一筋の光がサーッと海面を突き抜けた瞬間、ペコは素早く羽を動かし空中に飛び上がった。

誰にも気づかれないようにほんの僅かの空気を揺らしながら。

 

小さな小さなペコの体が太陽に向かって吸い込まれていった。

 

 

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真夏の大冒険

 

ペコはこんなに高いところを飛ぶのは初めてだった。

見たこともない大きな船が白い波をかき分けて進んでいる。

 

そしてペコは海の上を飛んでみて初めて知った。

自分がいた島以外にもこんなにたくさんの島があることを。

 

もしペコがあのままあの島にずっといたなら、きっとこんなにたくさんのがあることを知ることはなかっただろう。

そして丸1日飛び続けたペコは、目の前に少しづつ巨大な島が見えてくるのに驚いた。

 

その巨大な島はなんと島の端が見えない。

どれほど大きな島なんだろう。

 

やがてその島の上空までやってきたペコは、花の蜜を吸うために巨大な島の森の中に降りてみた。

ペコはなんだか空気が澱んでいる気がした。

 

ペコが育った島の空気はとても澄んで美味しかった。

しかしこの巨大な島の空気は、これまで嗅いだことがないようなガスの臭いがした。

 

しかもこの島には花がない。

どこへ行けば花があるのかもわからない。

 

ペコは途方に暮れた。

お腹が空いてもう動けない。

そしてペコは気を失ってそこに倒れ込んでしまった。

 

どれくらいの時間が経ったのだろう。

何か獣の臭いがする。

その臭いに気づいてペコはようやく目を覚ました。

 

その時だった!

いきなり巨大な獣がペコ目がけて襲いかかってきたのだ。

 

『ピーピーピーピー!!』

 

ペコは精一杯の鳴き声を出して助けを呼んだ。

ペコを襲った獣は野良猫だった。

尖った歯を剥き出してペコの尻尾に噛み付いてる。

 

ペコは必死で羽をバタつかせたが逃げられない。

 

『もうダメだ・・・』

 

ペコが諦めかけたその時だった!

ペコに噛みついていた野良猫が奇声をあげて飛び上がったのだ。

 

『フギャーーーー!!!』

 

ペコは一瞬何が起きたかわからなかったが、野良猫はペコを吐き出してどこかへ逃げ去ってしまった。

地面に放り出されたペコは野良猫が走り去った方を見た。

 

するとそこには空中に浮かぶ小さな鳥の姿があった。

 

『この羽音は・・・』

 

ペコは自分と同じ羽音を出して空中に静止している小さな鳥を見てつぶやいた。

 

『蜂鳥だ!』

 

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仲間

 

ペコを救った蜂鳥はメスだった。

名前はミコ。

ミコは野良猫に襲われているペコを見て、勇敢にも野良猫の目を長いくちばしで突つきペコを野良猫から助けたのである。

 

ペコは弱った体を持ち上げてミコに礼を言った。

 

『ミコありがとう。

おかげで野良猫に食べられずにすんだよ。』

 

ミコは美しい蜂鳥だった。

体はペコと同じくらいで5cm足らずしかない。

しかしその羽は極彩色をしていて、際立って美しい模様をしていた。

 

『あなた大丈夫!?ずいぶん体が弱っているみたいだけど・・・

お腹が空いているんじゃないの?

 

だったら美味しい花の蜜があるところを知っているわ。

私について来れる?』

 

ペコはあるだけの力を振り絞って飛んだ。

ミコの跡を追いかけて・・・

まるで2羽のツガイのように。

 

ミコが連れてきたのは一面に花が咲いている公園だった。

ペコの島にはこんなに大きな公園はなかった。

始めてみる広大な公園にペコは圧倒された。

 

それにしても花がきちんと並んで咲いている。

なぜこんなに花が並んで咲いているのか・・・

 

そんなことを考えながらペコはミコの隣で花の蜜を吸った。

ペコは初めて見る自分以外の蜂鳥がとても珍らしかった。

ミコの横顔を見ながら吸う蜜はとても甘く特別な味がした。

 

『この公園は広いから、蜂鳥が花の蜜を吸っていても誰からも邪魔されないの。

私たちは小さいからみんな蜂だと思っているのね。』

 

ミコはそれから公園の中を案内してくれた。

変わった蜜の味がする花がある場所や水を飲む池、そしてミコが住んでいる巣にも連れて行ってくれた。

ペコはミコに助けてもらったお礼をしたかったが何もできなかった。

 

知らない土地だから何もかもミコから教わった。

やがて2羽の蜂鳥は一緒の巣で暮らすようになっていた。

 

ペコに初めて仲間ができた。

 

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ミコの死

 

ずっと生まれた島で一人で暮らしてきたペコは、ミコとの生活が楽しくて仕方がなかった。

ペコの両親はペコが生まれてすぐにいなくなってしまったのだ。

 

死んでしまったのかどうかもわからない。

だからずっと今まで一人で生きてきた。

 

ミコは美味しい蜜を探し出すのが得意だった。

ミコがこれは美味しいはず!と言う花の蜜はどれも格別の味。

ミコは本当にすごいなとペコは心から尊敬した。

 

2羽の小さな蜂鳥にはさらに小さな雛が生まれた。

ペコの仲間は3人になった。

雛は可愛いメスの蜂鳥だ。

 

ペコとミコは雛をとても可愛がった。

スクスクと大きくなる雛。

あの大きな公園では、花の蜜を吸う親子の蜂鳥がいつも見かけられるようになった。

 

ペコもミコも幸せだった。

 

それから3年の月日が経った。

 

ある日、ミコは一人で新しい花の蜜を探しに行った。

巣からはかなり遠い公園の端の方までやってきた。

ここにはちょっと変わった花があるのだ。

 

もう雛も大人になったから、きっとここまでは飛べるはず。

そう思ってミコは知らない場所まで飛んできたのだ。

 

ここに咲く花はどれも小さい花ばかりで背丈が低かった。

ミコが地面スレスレで花の蜜を吸っていると、そこに突然真っ黒な野良猫が現れた。

 

ミコは蜜を吸うのに夢中で気づかない。

野良猫は足音を消してミコの背後から近寄ってくる。

 

野良猫の目は片方が潰れて見えないようだ。

 

そうだ。

この野良猫はペコを襲ったあの野良猫だったのだ。

 

片方の目を潰したのはミコ。

野良猫はそれを覚えていた。

 

『今度こそお前を食ってやる』

 

野良猫はミコの背後から飛びかかった。

驚いたミコの羽が飛び散る。

 

ミコは野良猫に鋭い爪で抑えつけられながらも必死で抵抗した。

どれくらいの時間が過ぎただろうか・・・

咲き乱れる花の一箇所が無惨にも踏み荒らされ、その中心に1羽の蜂鳥が横たわっていた。

 

帰りが遅いな〜と心配になったペコはミコを探しに行こうと思ったが、この広い公園のどこにいるのか見当もつかない。

ペコはまだミコほどこの公園のことを知らない。

 

しかしペコは何か胸騒ぎがした。

しばらく公園の中をあちこち飛んでいると、公園の端の方に花が踏み荒らされているのを見つけた。

 

ペコがなんだろうと近寄ってみると、なんとそこには血だらけになったミコが地面に倒れていた。

 

『ミコ〜〜!!!!!』

 

ペコはミコの名前を叫びながらミコのところに飛んだ。

 

『ミコどうしたんだ!!』

 

『ぺ・・・コ・・・。

ごめんね、私が油断したから猫にやられちゃった・・・。』

 

『ミコ!死んじゃダメだ!

一緒に巣に帰ろう!!

まだミコに何の恩返しもできてないのに・・・

死なないでよ、お願いだから。』

 

でもミコは死んだ。

いつもペコに美味しい花の蜜を探してくるミコ。

ペコが『美味しい!』と言って蜜を吸うのを見るのがミコの幸せだった。

 

『ミコ、さようなら・・・

長い間一緒にいてくれて本当に楽しかったよ。

でも、僕ももうそろそろ寿命が近づいている。

きっとすぐに会えるからしばらく待っててね。』

 

 

ペコはミコがいなくなった今、ミコと一緒に暮らしたこの公園で一人で花の蜜を探して飛んでいる。

 

一人で吸う蜜はこんなに美味しくないのかと思いながら。

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