南の島は夢の島
南の島というと、みなさんはどこの島を思い浮かべるだろうか。
フィジーやモルディブ、セイシェルなど、リゾートで有名な島はたくさんある。
私が育った天草という島も、セレブ感は皆無だが九州では別荘地としても人気のある島だ。
日本だとやっぱり沖縄だろうが、いずれにしろ南国に浮かぶ小さな島に、老後に移住でもできたらいいだろうな〜なんて一度は考える方も多いと思う。
私は60歳を過ぎたら、この『老後は南の島移住プロジェクト』を実行する予定だった。
もちろん嫁と二人でだ。
まだ年金がいくらになるとかあまり具体的に知らないときだったので、とにかく年金で暮らせる南の島を探すのを目標にしていた。
友人たちにもそう公言していたが、友人の半分は池袋のピンサロ『南の島』と思っていたらしい。
そうそう、あそこは9時までに入店するとお得なんだよね〜( ̄▽ ̄)
って、おい!!
池袋のピンサロを人生の目標にしてどうするんだ!!
とにかく嫁との老後は、どこかの南の島でのんびり暮らすことを夢見ていたのだ。
嫁は色が黒かった。
地黒でもあったがとにかく日に焼けやすく年中真っ黒だったので、日本にいてもフィリピン人にタガログ語でいきなり話しかけられたりしていた。
なので、どこに移住しても嫁はすぐに馴染んで、誰にでも好かれる性格だから友達もすぐにできるだろうと考えていた。
嫁は人と接するのが大好きだったので、南の島に移住したらホテルで働きたいと言っていた。
じゃあ私は漁師になってバナナボートで毎日釣りに出かけよう。
晩ごはんのおかずは私が毎日新鮮な魚を釣ってくるからと嫁に約束していた。
そんな話を二人でよくビールを飲みながら話をしたものだ。
ところが・・・
嫁はあっけなく死んでしまった。
リゾートのビーチで水着になることもなく、
ホテルに勤めて人気者になることもなく、
私が釣った魚を料理することもなく、
南の島行きの空港にも辿りつけず・・・
そのずっとずっと手前の・・・
千駄木の大学病院のICUで私たちの夢は潰えた。
南の島はここだったのか・・・
あれから6年。
今も私は東京に住んでいる。
さすがにひとりで海外のリゾートに住もうとは思わない。
二人だったから遠い南の島への移住も夢にできたが、一人では無理だ。
自分一人がはしゃいでも何も楽しくない。
南国に浮かぶ小さな島の美しいビーチ。
延々と続く白いビーチの一握りの砂。
その砂粒ほどの確率で男と女は出会う。
出会いは奇跡のような出会いなのに・・・
嫁が死ぬときには奇跡は起こらなかった。
最近は『地球の絶景』という番組を見て思う。
画面に映し出される絶景のリゾート。
もしかすると私と嫁が移住していたかもしれない、どこかの南の島の映像だ。
東京の古びたマンションの一室で画面越しに見る南の島は、絶景なのだがどこか色褪せて見える。
果たして二人であの島に移住していたら私たちは幸せだったのだろうか?
もしかすると嫁と暮らしてきた東京こそが南の島だったんじゃないだろうか。
家族がたくさんいた東京。
極彩色の東京。
友人がいて・・・
嫁がいた。
ここが楽園?
そうか。
私たちはすでに南の島に住んでいたのか。
※この記事は過去に書いたものをリライトして再掲載したものです。
なので、過去のコメントがそのままくっついてますがご了承くださいね。
ブログによく登場するタグ