50代に起きる職歴格差
64歳のP氏は、歳をとってからというもの朝目が覚めるのがやたら早くなった。
この時間に起きているのはいつもベランダにやってくる鳩くらいなものだ。
うちには餌はないと言ってるのになんで毎日うちのベランダに飛んで来るんだろう?
そんなことを考えながらベランダのミニトマトと大葉、ローズマリーにたっぷりと水をやる。
まさかこのミニトマトを狙ってるんじゃないだろうな!
お前がもし私のリコピンを食べたならお前は丸ごと焼き鳥だ。
そして結局リコピンは私の栄養となる。
鳩との食料戦争を終えてテレビをつけると、めざましテレビが今日も水瓶座に厳しいことを言っている。
コーヒーを淹れて朝食の野菜スープを飲みながらパソコンのスイッチをいれた。
これから私の仕事の始まりだ。
最近はもっぱらテレワーク。
だから朝からのんびり鳩の相手をしてやったり、途中で昼食の準備をしたりワンコの散歩に行ったりと自由にできる。
仕事はオンライン会議を除けば1日の労働時間は1時間程度で終わる。
これで一人前の報酬をもらえるのは年金暮らしにはたいへんありがたい。
やはり50代最後の仕事を頑張っておいてよかった。
その経歴だけで今があるようなものだ。
まずいくつか登録した顧問紹介サービス。
まさかこんなに仕事の案件をいただけるとは思ってもなかった。
自分の経歴の何が世の中の役に立つのかなんて、結局自分ではわからないものだ。
それは企業が抱える課題が多種多様であるということ。
課題がある限り仕事のニーズは必ずある。
それをまず信じることだな。
P氏はつくづく考える。
まあいつまで続くかはわからないがそれでもやれるところまでやってみよう。
必ずまた何かのニーズがあるはずだ。
なぜなら、この4年間のあいだやってきたことは50代の仕事の延長だ。
私のスキルは現役のときよりもさらに4年分蓄積されている。
午後には今夜の晩酌のつまみを何にしようか考え出す。
毎日、ONとOFFの時間がはっきりと分かれている。
仕事に集中する時間と自分の好きなことを考える時間の切り替えが、私の脳の活性化に繋がっていると思う。
よ〜し、今夜は久しぶりに肉でも焼いて食うか。
焼き鳥はあの鳩がもう少し太るまで待とう。
そしていつものように映画を見ながらウィスキーを飲む。
私の64歳は最高か!
しかし、50代で今のキャリアがもし形成できていなかったなら・・・
きっと鳩と遊ぶ余裕などなかったに違いない。
64歳Y氏の場合
今日もハローワークに行ってみるかな・・・
朝目が覚めてぼんやりとそんなことを考える。
さすがに60歳を過ぎると仕事なんて本当にないんだな。
家族がいるリビングには居づらいからいつまでも布団の中から出られない。
リビングに降りた頃にはもう朝食はきれいに片付けられた後だ。
Y氏がバリバリ仕事をしていたころは、奥様も朝から朝食ができたからと起こしに来てくれたしお弁当も毎日用意してくれた。
Yシャツにはアイロンがかけられ靴はいつも奥様が磨いてくれてピカピカ。
息子が小学生のときに書いた作文の題名は『尊敬するパパ』だった。
しかし今や息子はIT企業のプロジェクトマネージャー。
尊敬する人物はパパから『孫正義』へと代わり、奥様が磨く靴は息子の革靴に代わった。
ハァ〜、なんでこんなに変わってしまったんだ?
早く私も仕事を探さなければ・・・
あれからハローワークに紹介されて何度面接を受けたかわからない。
しかしその度に聞かれるのは、『なぜ50代に仕事を3回も代わったんですか?』そればかりだ。
50代の3回の転職のうち最初の転職は、かねてから自分でやりたかった小さなカフェのオーナー。
家族の反対を押し切って小さな街で小さなカフェをオープンした。
これで一国一城の主人である。
長年の夢が叶った瞬間だ。
昔から私が作るカレーを奥様も息子も美味しい美味しいと言ってくれた。
そしていつか私の自慢のカレーをみなさんにも食べてもらいたいと思うようになった。
それからカフェをやることがY氏の夢になったのだ。
しかしY氏が作るカレーはカレーの王子さま。
息子も子供だったから美味しいと言ってくれたが、大人になった息子は今ではスパイスカレーの達人だ。
世のご主人様は、家族におだてられるとなぜかみんな木に登る。
そんなY氏のカフェがうまくいくわけがない。
早々に資金も尽き、その後はまた生活のための仕事探し。
手っ取り早く収入になるところを優先して探したために、以前のキャリアはぷっつりと切れてしまった。
Y氏はこのキャリアが途絶えてしまうことがもっとも老後の足を引っ張ることだと知らなかった。
キャリアは老後の資格のようなもの
今日は私の経験から老後の仕事について書かせていただいた。
この2人のモデルはもちろんフィクションである。
しかもたまたま読んだ『婦人公論.jp』の記事が面白かったので構成を真似させていただいた。
老後のためにと資格を取得される方も多いだろう。
社会保険労務士や中小企業診断士のような士業、師業などさまざまな資格がある。
それはそれできっと老後の仕事に役に立つと思う。
しかしいきなり資格をとっても、その業界にはすでに多くの先輩たちが存在するので、すぐに収入に結びつくとも考えずらい。
私の経験からで恐縮だが、一番スムーズに収入につながるのはやはり50代で培ったキャリアやスキルを活かすことだと思っている。
そう言う意味では50代にどのように仕事をするか、いかにキャリア形成ができたかということがとても重要だ。
Y氏のようにキャリアがぷっつり切れてしまうと、以前のキャリアを活かして仕事をするということがなかなか難しくなる。
なぜなら、職歴は学歴と同じように最終の経歴がもっとも重要だからだ。
中学校や高校がいくら優秀でも問題は最終学歴。
逆に言えば高校が無名でも東大卒業というのは、日本では最高のブランドになると誰もがわかる。
そう言う意味で、50代、もしくは60代の方もいるかもしれないが、最終の職歴というのはとても大事なのだ。
ぜひその職歴を活かして老後の仕事に役立てていただきたいと思う。
そしてそのキャリアが若い会社などで存分に役立つことが、永らくお世話になった社会への恩返しにつながると思う。
社会人となった息子が働く今の社会への恩返しだ。
これが『父の恩返し』である。
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