山口瞳
私は居酒屋が好きだ。
最近はビアバーしか行ってないように見えるが、それはこのコロナ禍のせいであまりウロウロできないからである。
まあクラフトビールは大好きなので、たまたまクラフトビールのバーが近所にあるのは運がよかった。
私の好きな居酒屋は歴史のある個人店である。
だからと言ってタイトルに書いた『居酒屋放浪記』という番組は見ない。
あの番組は嫌いだ。
なぜ嫌い?
登場するあの親父が嫌いなのである。
私がテレビで見ている飲み歩き系の番組だと、作家の太田和彦さんの『ふらり旅 いい酒いい肴』は欠かさずに見ている。
あまり飲まない日本酒も、太田さんがいつも美味しそうに燗酒を飲んでいるのを見て、たまに居酒屋で飲むようになった。
太田さんは飲み方に品がある。
酒のうんちくも勉強になるし前述のエロ親父とはえらい違いだ。
そして私が若い頃に読んだ『酒呑みの自己弁護』という本があるのだが、このエッセイを書かれた山口瞳さんには、酒飲みとしておおいに影響を受けた。
山口瞳さんはサントリーの宣伝部でコピーライターをされていた方である。
そう書くとコピーライターが本業のように聞こえるが、この方は直木賞を受賞されている著名な小説家である。
『酒呑みの自己弁護』という本は、山口さんが各界の著名人と酒を酌み交わしたエピソードを1冊の本にまとめたものだ。
しかしその飲みっぷりがすばらしく、登場人物のみなさんもやたらと酒豪ばかり。
しかもそれだけお酒を飲んでもみなさん飲み方がたいへんきれいで、お酒で醜態を晒すというようなシーンはどこにも出てこない。
その本を読んでからは、私もお酒はきれいに飲みたいと思って今も実践している。
私が今まで一番お酒がうまいと思ったのは、実は居酒屋でもどこでもない。
人工関節の手術で京都の病院に入院していたときに、嫁に頼んで家から持ってきてもらった焼酎を、看護師さんに隠れて飲んだときが一番うまかった!
外科病棟は内臓の疾患とは違って、怪我や外科の手術が終わればだいたい元気である。
なので、私がいた6人部屋の大人たちは、毎晩みんな隠れて各々好きな酒を飲んでいた。
いや、隠れて飲んでいたのだが、看護師さんたちはみな知っていた。
看護師さんが夜見回りに来て私たちの病室に入ると
『ここが一番酒臭いわよ!』
と叱られていたから・・・
術後1ヶ月は酒を絶っていたし、それにバレていたとは言え隠れて飲む酒というのは、格別にうまいということをあのとき知った。
体育館の裏で隠れて吸ったタバコの味。
親に隠れて見るエロ本。
どれも格別らしい。
もちろん人に聞いた話である・・・ゴホッゲホッ
ちょっと変な咳が出る。
毎晩夕食の時間になると病室のおっさんたちが車椅子で、廊下の一番奥にある共同の冷蔵庫へ向かって一斉に走り出す!
みな晩酌のお酒を取りに向かうのだ。
カーブでインをとったものがだいたい1位となる。
頭に包帯を巻いている者。
足にギブスをはめている者。
とても怪我人とは思えないシャープな走りで、みな冷蔵庫を目指す。
パラリンピックか!!
自分の酒のボトルには間違えないようにマジックで名前が書いてある。
本来ならお見舞いにもらったフルーツなどを冷やしておく冷蔵庫なのだが、もはや酒以外に置けるスペースなど1ミリもない。
みな病院に入院しているというのにとんだ馬鹿野郎だが、愛すべき病室仲間だった。
思い出に残る名居酒屋
いい居酒屋の情報があれば、どこまでも遠出して飲みに行っていた。
当時はグルメブログをやっていたのでそれもあるが、好きな居酒屋に出会えると無常の喜びがあった。
いいお店というのは、美味しいお酒や酒の肴が揃っているだけではダメだ。
私が思ういいお店とは、お客がそのお店の雰囲気を作っていると思う。
客筋を見ればいいお店かどうかだいたいわかるものだ。
先日ある海外ブランドの広報をやっている友人の女性に、京都のあるお店を教えてあげたらちゃんと着物を着てひとりで昼間から熱燗を飲んでいた。
Instagramに私へのコメントがあったので気づいたのだが、そのお店がここだ。
たつみ
四条河原町にあって歴史のある居酒屋。
昼間から着物を着た粋なお姉さんが立ち飲みで日本酒を飲んでいる。
私も何度も通ったが、ここの白子の天ぷらがうまい!
この界隈の路地には新しいお店がどんどんできているが、このお店は変わらない風情でいつもお客さんがいっぱいだ。
他にも私が惚れたお店がたくさんあるが、いくつかご紹介しておこう。
カッパ
こちらは吉祥寺にあるもつ焼のお店だが、私がこれまで食べたもつ焼の中では一番うまいお店だった。
新宿の『鳥茂』ももつ焼の名店だが、ちょっと方向が違うので庶民のもつ焼という点では吉祥寺のカッパが一番。
ただし接客は最低。
なのにいつも開店前は行列である。
狭い店内には座れないので、窓のさんにグラスともつ焼のお皿を置いて席が開くのを待ちながら立って飲んでいる。
大黒屋
武蔵小金井にある創業が昭和30年という歴史のある居酒屋。
最近は行ってないのでお店が新しく建て変わったりしたようだが、地元では相変わらずの人気店だそうだ。
これこそまさに居酒屋というお店で、私が通っていた頃はおそらく先代の親父だったと思うが、とても人柄のいい大将だった。
またぜひ行ってみたいお店である。
千成 本店
巣鴨にある煮込みがうまい居酒屋。
東京に来たばかりのころ、よく仕事帰りにこのお店で飲んだ。
とにかくこのお店の煮込みがうまい!
煮込みではこのお店が一番だ。
どうやって作っているのかずいぶん研究したがわからなかった。
友人たちと千成ツアーと称して煮込みを食べに行ったこともある。
私は嫁とも何度も行ったが、普通煮込みを頼むのなら二人で1個だろう。
しかし、このお店の煮込みは何人で行っても人数分頼むのだ。
シェアなどできない。
自分ひとりで最後のおつゆまで飲み干したいから。
行きつけのお店
居酒屋ではないが、私の行きつけの飲み屋というとこのビアバーだ。
外飲みは大体このビアバーからスタート。
美しいHAZY IPA。
こんなにきれいに濁っているのも珍しい。
今日のブログは居酒屋がテーマだったので、それでは居酒屋に行かなければと思い最近通っている下高井戸の居酒屋へ。
この居酒屋もいいお店である。
ハイボールがキンミヤのグラスで出てくるのはちょっと残念・・・
マヨネーズ味がしないポテトサラダ。
なんか上品な味だがよくわからない味。
ポテトサラダは居酒屋の定番であり、そのお店の実力がわかる一品である。
料理へのこだわりがポテトサラダの味でわかるから、バカにしてはいけない。
寒ブリの漬け。
絶妙な漬け具合。
脂が乗った寒ブリは味が入りにくいと思うが、塩梅がすばらしい。
自家製からすみ。
からすみを作る工程はたいへん手間がかかると承知しているが、その手間が醸し出す独特の味わいは最高だ。
焼酎がすすむ。
おそらくプリン体の塊を食べているようなものだろう。
豚のスペアリブ。
焦げた肉ほど旨いものはない。
噛みごたえのある豚肉で、顎がだいぶ筋肉質になった気がする。
お店は満席となり後から来た客がはいれなくなってきたので、私は早々にお店を出た。
もう深酒もできないほど酒も弱くなった。
歳をとるとだんだん安上がりの体質になるようにできているのだろう。
下高井戸の商店街には『赤鼻のトナカイ』が流れていた。
もうすぐクリスマスだ。
今年のクリスマスもひとりで居酒屋で飲んでると思う。
昔の思い出を肴に酒を飲む。
これも老後の楽しみだ。
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